学童野球では、ピッチャーが変化球を投げることは禁止されている。にもかかわらず、長らく事実上、グレーゾーンとされてきた球種がある。全日本学童クラスの大きな大会でも、いや、ハイレベルな大会でこそ多投されている「チェンジアップ」がそれだ。この状況に「否」の声を上げるのは、日本一有名な学童野球指導者にして、学童野球界のオピニオンリーダーでもある滋賀県・多賀少年野球クラブの辻正人監督。今回はこの「学童チェンジアップ問題」について考えてみたい。
(鈴木秀樹)
年明けの関東遠征で…

この数年、多賀少年野球クラブは年明けの連休を使い、関東遠征を敢行している。今回、その試合現場を訪れると、ベンチから辻監督の声が響いた。
「チェンジアップ投げるのはやめましょうよ!」
交流大会に参加しているのは、いずれも全国大会を狙う、関東の強豪チームばかりだ。対戦相手ベンチで当初、戸惑いとともに受け止められた辻監督のひと声。3日間にわたって行われた交流大会は、ともすれば今では気軽に投げられていた、チェンジアップの是非があらためて問われる機会となった。
◇ ◇
チェンジアップとは、一般的に、ストレートと同じ腕の振りで、ボールの握りを変えることで速度を落とす変化球とされる。学童野球の現場では、ボールの回転を極端に抑えることで、フォークボールのように落ちる軌道のボールを投げる投手も多い。
おさらいしておくと、全日本軟式野球連盟が発行している、軟式野球の独自ルールをまとめた「競技者必携」(2025年版)の「2.協議に関する連盟特別規則<学童部(女子共)>」内には「10.変化球に関する事項」として、以下の記述がある。
『関節の障害防止のため、まだ骨の未熟な学童部の投手は変化球を禁止する。投球が変化球かどうかは球審の判断による。』
説明が過ぎるようにも感じるが、「変化球を禁止する」というルールは明記されている。
そもそも、ルールでは禁止です
(福地和男撮影)
そうした事実にもかかわらず、この数年、とくに都道府県大会や全国大会など、ハイレベルな大会で、チェンジアップを使う投手を目にすることが増えた。見ない大会はほとんどない、といっていいほどだ。投手を写した写真を試合後に見て、あらためて握りの違いを認識することも多い。
ただ、ことチェンジアップについては、その使用を擁護する意見も少なくない。その論拠は主に、カーブなど、ひねりを加えてボールに回転をかける変化球と違い、ストレートとの投げ方の相違は「ボールの握り」だけで、肩や肘に与える影響はストレートと変わらないという考え、加えて、全国大会でもみんな投げていて、審判も黙認しているではないか──という事実認識にあるようだ。
以前、学童野球大会の現場で、実際にチェンジアップは容認されているのか、と審判員に聞いて回ったことがある。ほぼ全員の返答は「ノー」で、「握りを変えていれば、それは変化球でありNG」という意見であった。
にも関わらず、放置されている(ように見える)のは、「疑わしきは罰せず」という判断にほかならない。チェンジアップは5本指すべてでボールを握ったり、いわゆる「OKボール」の握りだったりとさまざまだが、それほどの頻度で投じられるわけではないため、審判員が試合中、確信の上で「現行犯」として指摘するのは難しいのだという。
さらに、競技者必携にある「関節の障害防止のため」という言葉も都合よく解釈されがちだ。肩・肘への影響はストレートと変わらないのだから、チェンジアップは禁止する理由がないではないか──。これに「疑わしきは罰しない」事実も加わることで、「審判も事実上、容認している」と、都合のよい「拡大解釈」が生まれることになる。
しかし、実際には審判員は認めてはおらず、何より「変化球を禁止する」ことが明示されているのだから、本来は「グレーゾーン」ですらないことになる。試合でチェンジアップを投げている投手、投げさせているチームは「許されている」わけではなく、「不正が見逃されている」だけ、というのが実際なのだ。
◇ ◇
「ルールを守った方が損をする状況はやはり、おかしいですよね」
辻監督が言う。正論である。
とはいえ、辻監督自身、「10年位前かな、もっと前か…。当初、全国大会(マクドナルド・トーナメント)でチェンジアップを投げる子が出始めた頃には、審判に抗議をしていたこともあります」と振り返る。さらに、「その後には、相手チームのピッチャーがチェンジアップを投げていたら、ウチも対抗して投げさせていた時期もありました。やられたらやり返せ、みたいなもんです」と、多賀でも以前は投げさせていた事実を告白する。
「ただ、そうして勝つことに、後ろめたさというか、恥ずかしさというか、感じてはいたんです。で、それって選手の親に胸を張って説明できるのか? 審判を欺いて勝つ野球が正しいのか? 何のためにスポーツを教えているのか? そんな自問をずっと、続けていて。最終的に、そうじゃないやろ、となったんです」
離れる人いるかも… 覚悟あっての提言
ウチのチームではもうチェンジアップは投げない──。辻監督の提言は、ある意味、自らの退路を断つ意思表明でもあったのだ。
「仲の良いチームとの試合でも、ボクの言葉で一瞬、空気は悪くなりましたよね。言い続けることで、近しく付き合ってくれているチームが離れていくようなこともあるかもしれない、とも思っています」
今回、辻監督が声を上げた「チェンジアップ禁止」を実現するために必要なのは、審判による厳格なルール適用ではなく、各チーム、指導者が自らの問題として捉えた上での、モラルと覚悟の問題ということになろう。
おそらく学童野球の指導者として、もっとも影響力のある第一人者・辻監督の発言だけに、そのインパクトは大きいはずだ。今シーズン、学童野球の戦い方に変化は生じるのか。真夏の大舞台では、「やったもん勝ち」の状態を脱し、チェンジアップ抜きの迫力ある戦いを見ることができるだろうか。
ここからは、商品紹介です!
「チェンジアップを使わない勝負」を提案する多賀少年野球クラブ・辻監督。とはいえ、ルールの中では知恵を絞り、勝利を目指すのが多賀の伝統だ。「緩急で勝負するためのスローボールはもちろんですし、走者を刺すけん制も磨きますよ」と、辻監督は今後の戦いにも言及していた。
◇ ◇

チェンジアップをこれまで投げていても、いなくても、ピッチャーにとって、緩急をつけた投球術が大きな武器になることには違いない。
フィールドフォースからの提案は、スローボールの精度を高めるのにも最適な「ストライクゾーンネット」FSZN-180。ホームベースの幅43.2センチよりも左右にボールひとつ分ほど広く幅をとった四角のネットをストライクゾーンに見立て、これに投げ込むことで、コントロールをつけようというネットだ。
ネットの枠は角度を変更することができるようになっている。ネットの枠を垂直に立てて、ホームベースの位置においてストライクゾーンに投げ込む練習ももちろんだが、とくにスローボールのコントロールは、奥行きも含めた距離感をつかむことが大切。枠を水平近くに傾け、距離や奥行きを感じながら、山なりのボールを投げ入れる練習も有用だ。スローボールの精度を磨いて、チェンジアップに頼らずとも、無敵の投球術を身につけよう。
